対米自動車輸出が堅調な理由

食料品を中心とする物価高騰が続き、消費を低迷させている
日本経済は、人手不足を背景とした賃上げにより個人消費が盛り上がり、それが景気のけん引役となっていた。だが、2024年後半以降の食料品を中心とする物価高騰で、けん引役だった個人消費は頭打ちになった。結局、この物価高騰によって、景気拡大のモメンタムは止まった。
GDP統計から、これを検証してみよう。実質GDPは、2024年4~6月に前期比0.9%増、7~9月同0.2%増、10~12月同0.6%増と3四半期連続のプラス成長となったが、25年1~3月はマイナス0.2%と急ブレーキがかかった。
25年1~3月がマイナス成長になったことについては、数字の上では、GDPの控除項目である輸入が大幅に増加したことが一因だが、輸出入は振れが大きい点に注意が必要だ。基調的な成長鈍化の主因は、内需の柱である個人消費の低迷だったと言っていいだろう。実質個人消費は2024年4~6月に前期比0.8%増、7~9月同0.7%増と2四半期連続で高い伸びを示していた。
しかし、その後、10~12月が同0.1%増、25年1~3月が同横這いとなり、伸びは頭打ちになった。特に、25年1~3月については、名目個人消費が前期比1.6%増と堅調に増加したものの、物価上昇率に相当する個人消費デフレーターが同1.5%増となり、物価の大幅上昇が名目個人消費の増加を打ち消した。
そして、その物価上昇は4月も続いている。コア消費者物価(生鮮食品を除く総合)は、4月に前年比3.5%上昇となり、23年1月(同4.2%上昇)以来の高い伸びとなった。
コア消費者物価の前年比は、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格上昇で、2022年4月に2.1%と2%台に乗せたあと、食料価格上昇などに後押しされ、23年1月には一時4.2%と加速した。
その後、食料品価格が一時、落ち着いたことで、コア消費者物価の前年比も24年1月に2.0%へと鈍化したが、食料品価格が24年後半以降、再び上昇し、物価全体を押し上げ始めた。
米価格の上昇(4月は前年比98.6%上昇)が話題になっているが、消費者物価全体に占める米の比率は0.6%とわずかで、米価格上昇の消費者物価前年比に対する寄与度も0.6%ポイントとさほど大きくない。
4月には生鮮食品の価格が下落したが、生鮮食品を除く食料(コメを含む)は、4月に前年比7.0%上昇と、上昇テンポは前月の6.2%上昇から加速した。生鮮食品を除く食料(コメを含む)の消費者物価全体に占める比率は22.3%で、消費者物価前年比に対する寄与度は1.7%ポイントとなっている。
つまり、上昇しているのは米だけでなく、米以外の食料が消費者物価物価全体を1.1%ポイント上昇させていることになる。食料品価格上昇は天候不順などによる供給不安が原因と言われることが多い。
だが、筆者は、食料品価格上昇は、円の通貨価値下落(=インフレ)によるものと考える。
日本は、食料を自給できず、輸入に頼らざるをえない。円安によって、海外の食料品価格は日本に比べ相当割高になっており、その割高な輸入食料品が日本に流入している。ここへきて幾分円高になっているが、多少の円高では、高価格な輸入品の流入による物価上昇圧力は消えない。
物価上昇の動きは今後も広がり、それが個人消費など内需の低迷につながるだろう。通貨価値下落によるインフレに対応して、米の価格の人為的な引き下げ(あるいは価格統制)や減税など可処分所得拡大策などの政策がとられようとしているが、これが間違った政策であることは言うまでもない。
インフレへの対応としては、基本的には金融引き締めが必要だ。日銀は現時点ではトランプ関税の様子を見守っている。だが、物価高騰による消費低迷に歯止めをかけるためには、インフレ抑制が必要だ。
現状は日銀が目指していた「物価と賃金の好循環」ではないが、できるだけ早急な利上げによって、今のインフレを抑制する必要があるだろう。
関税発動にもかかわらず、4月の対米自動車輸出数量は予想に反して増加
トランプ大統領は、4月から相互関税を発動し、また、鉄鋼や自動車などに対する25%の追加関税を発動した。対米自動車関税は、日本の基幹産業とされ、産業のすそ野も大きい、自動車産業を直撃することになる。
通関貿易統計によれば、2024年の日本の対米自動車輸出金額は6.0兆円と、それだけで輸出全体(107.1兆円)の5.6%、名目GDP(609.4兆円)の1.0%に相当する。追加関税分が現地での販売価格に転嫁され、日本車の価格が大幅に上昇すれば、米国内での日本車の価格競争力が大きく低下するだろう。
そうなれば、日本からの対米自動車輸出数量が減少し、それに伴って日本国内での自動車及び関連産業の生産活動が落ち込み、日本経済に大きな悪影響をもたらす。
個人消費が低迷するなか、トランプ関税は、日本の景気悪化を決定的なものにする、というのが多くのエコノミストの予想だった。
トランプ関税が日本経済に及ぼす影響について、こうした悲観的なシナリオが喧伝され、一部自動車メーカーの経営不安と相まって、それに対応した追加経済対策が必要との見方さえでてきている。
だが、実際には、関税発動後の4月も、日本の対米自動車輸出は、想定されたような落ち込みはなかった。むしろ、駆け込み需要が続いているためか、自動車の対米輸出数量は大幅に増加した。なぜか?
トランプ関税によって、日本の自動車輸出が減少するという、多くのエコノミストの予想については、その大前提として「追加関税分が現地での販売価格に転嫁され、米国内での日本車の価格が大幅に上昇する」とのことがあった。
だが、この前提が間違っていた。日本車メーカーは、過去の円安局面やコロナショック後の米国のインフレ局面で、販売価格を現地の価格に合わせるような価格戦略をとってきた。
そして、今回も、日本車メーカーは、追加関税分を販売価格に転嫁せず、販売価格を現地の価格に合わせる価格戦略をとっているようだ。
関税分を販売価格にフル転嫁するというのは、エコノミストが経済予測の計算を簡単にするための安易な前提にほかならない。
現地での販売が大幅に減少することを承知のうえで、追加関税分(25%)、現地の販売価格が上昇するというのは、もともと、非現実的な仮定と言わざるをえない。
4月の貿易統計をみると、日本車メーカーは、現地での販売価格が急激に上昇しないよう、輸出価格を引き下げ、円建て輸出単価は前年同月比14.6%低下(ドル建て輸出単価は同12.2%低下)した。
関税がかけられても現地での販売価格が大幅に上昇しないよう、輸出価格が大幅に引き下げられた。そのため、輸出数量は予想に反して増加し、乗用車の輸出金額(円建て)は同4.8%減となった。
4月の対米乗用車輸出金額は減少したが、これは、関税で日本車の価格競争力が低下したからではなく、日本車メーカーが値下げしたからにほかならない。
今後も、日本メーカーは現地での販売価格をある程度、現地での価格に合わせて設定し、日本車の価格競争力が大幅に低下しないような、価格設定行動を続けるのではないかと推測できる。
すなわち、輸入関税実施に伴って、米国産車の価格も幾分上昇するだろうが、日本車の現地での販売価格もそれに合わせた小幅な上昇にとどめ、その分、輸出単価を引き下げることになるだろう。
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2025/5/26の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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